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椀子ワイナリーをあとにして、次に訪れたのは塩尻市の桔梗ヶ原ワイナリーです。塩尻は日本のワイン発祥の地のひとつであり、桔梗ヶ原のワインぶどう栽培は明治23年(1890年)に始まりました。しかし、その歴史と伝統にも関わらず、桔梗ヶ原ワイナリーでは若々しい情熱に触れることになりました。
最初に訪れたのは、平出という地域にある桔梗ヶ原ヴィンヤード。広々とした風通しの良い平地に広がっており、藤木氏は到着するなり「風が通り抜けていって涼しいですね」と笑顔。
「広さは3ha、標高は730メートル。奈良井川と田川の間にあって、河岸段丘で形成された地域です。土壌は火山灰土由来の『黒ボク土』。水はけはものすごく良くて、大雨が振っても水たまりがほとんどできません。椀子に比べると雨量は年間1300mmと多く、冬の寒さも厳しいです」
そう説明してくれるのは、桔梗ヶ原ワイナリー長・メルシャンヴィティコール塩尻株式会社社長の高瀬秀樹氏。メルローが代表的な品種だが、水はけの良い土壌で育まれるその味は、エレガントで繊細、複雑で豊かな香りをはらんでいます。
「130年前にワインぶどうの栽培が始まったんですが、今よりも寒かったために耐寒性のあるメルローから始まりました。できるブドウも力強いタイプというより、柔らかくてしなやか、余韻の長いタイプになります」
歴史が長いことには、長く同一作物を栽培していることによる病気のでやすさというデメリットもあります。それを防ぐための作業がどうしても発生してしまうのだそうです。このヴィンヤードでは、病気を防ぐために、雨に当たるのを防ぐために、平出の圃場だけで3万枚の傘を掛けているのだそうです。
もうひとつの圃場の片丘ヴィンヤードは、平出から車で10分ほどの小高い山腹にありました。標高は800メートルとやや高くなり、西面した傾斜地に広がっています。高瀬氏によると黒ボク土は傾斜地のため流亡しており、砂礫が多く、硬い土壌で、水はけは大変に良い。そして、強い南風が吹き付けているのが特徴です。
「土壌が固いので、タンニンがしっかりと入る実になります。また、南からの風が始終吹いているので、実にストレスが掛かって、それがワインのスパイシーさを育てます」
これには「えっ、風でワインがスパイシーになるんですか?」と藤木氏もびっくりした様子。高瀬氏によると、常に吹く風が刺激になって、実が防御反応で皮を厚くし、種の比率を高める。このときに香りのもととなる成分も発生させているのだそう。
「土壌の質や寒暖差、風や日光で、ブドウの実に対するストレスのあり方が変わります。その防御反応によって色づきが変わったり、凝縮されたり、香りが変わったりする。人間はその反応をうまく利用して、ワインを作ってきたということなんですね」
桔梗ヶ原メルローは、平出と片丘のブドウを合わせて作りますが、質の異なるメルローをうまく配分することで、あの複雑な味が生まれています。ワインぶどうを育て、ワインを醸造する人(ヴィニュロン)は、農業者であり醸造家ですが、同時に科学者の思考とナチュラリストの目、クリエイターのセンスを持っていなければ、美味しいワインを作ることはできないということなのでしょう。
また、平出と片丘ともに、枝の仕立て方にこだわりと工夫がされていました。
「雨が多いので、樹勢がどうしても強くなりがち。棚栽培でコントロールすることもありますが、垣根栽培の場合は、短梢仕立て(ギヨー)で、木が大きくなるのを抑えます。品種によっては、付ける房の数を多くしてコントロールすることもありますね」
同じメルローでも、椀子ヴィンヤードでは長梢仕立て(コルドン)で栽培されていました。「椀子ヴィンヤードは雨が少ないのでコルドンのほうが育てやすいから」と高瀬氏は言います。
片丘は桔梗ヶ原に比べると土壌が痩せており、比較的雨も少ないため、樹勢も弱い。そのため仕立て方も変わります。また、品種によっても樹勢や芽の付き方が変わるため、常に観察しながら、仕立て方を検討することになるのです。
大変そうな作業ばかりですが、しかし、高瀬氏の表情はいつも明るく楽しげです。
「2016年に植えたフィアーノ(イタリア産の白品種)やリースリング、カベルネ・フランなどのブドウが、これから収量も増えてきます。フィアーノは若くて元気いっぱいで、力があるんですが、若い分まだまだ中身はすっからかんで(笑)深みに欠ける。それが時間とともにようやく柔らかくなってきたところで、これから面白いワインに育ちそう。どんなスタイルにしていくかは模索中ですが、鍛え上げていきたいですね」
楽しそうですね、という藤木氏の言葉に「楽しいですね」と高瀬氏。
「ピノ・グリも栽培していますが品質が向上していきました。日本ではまだメジャーな栽培品種ではないですが、今後日本として特徴のあるワインを作ることができるようになるんじゃないかなと。ゲヴュルツトラミネール(ドイツの白品種)も面白いと思います。気温が高くなってきたとはいえ、耐寒性と耐病性もあるので、今後期待する品種の一つです。」
高瀬氏の話を聞いて、藤木氏は「ワイナリーの風景や、人々の声を、お店に来る人に伝えたい」と改めて話しています。
「やはり直接体験すると印象に残るじゃないですか。私自身、ワインを飲むときに、この風景を思い出しながら飲むことになるでしょうね。それがきっとすごく面白い。そしてそれは、お店に来る人にも伝えたい。ただ知識として得た情報じゃなくて、自分で体感したものは面白いし、人にも伝わりやすいんじゃないかと思います」
そして、「桔梗ヶ原 ロゼ」はその複雑で立体的な香りから、キジやイノシシなど白身系のジビエが、「片丘ヴィンヤード 2019」は、深みには欠けるものの、濃厚さと片丘ならではのスパイシーさで、カラスに合うのではないか、と喧々諤々、高瀬氏と語り合うのでした。


