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メルシャングループ直営ワイン通販Château Mercian Online公式

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ワイナリー訪問
日本ワインと国産ジビエの新しい物語のために

2025.09.09
コラム

安蔵氏とのテーブルの上での小さな冒険で日本ワインと国産ジビエの可能性を知った藤木氏は、オーベルジュにほど近い2つのメルシャンのワイナリー、椀子ワイナリーと桔梗ヶ原ワイナリーを訪問することになりました。ワイナリーが、どんな土地にあり、どんな風土に育まれているのかを知るためです。それは日本ワインのストーリーへと至り、やがては国産ジビエとの新たな物語の始まりにつながるかもしれません。

自然との共生――椀子ヴィンヤード

藤木氏のオーベルジュ・エスポワールは蓼科山中にあり、上田市の椀子ワイナリー、塩尻市の桔梗ヶ原ワイナリー、どちらにも行きやすい位置にあります。エスポワールでの試食から間もない7月初旬、まず椀子ワイナリーを訪問しました。盛夏らしく日差しの強い、暑い日の訪問です。椀子ワイナリーはうねるように広がる美しい景色のヴィンヤード。折しも地元の中学生たちが農業体験で、ヴィンヤードで楽しそうに作業している姿も見られました。

出迎えてくれたのは、ワイナリー長の岡村敦氏です。新世界ワインの研究に従事し、オーストラリア現地での醸造を経て、2018年に勝沼ワイナリー、2021年に椀子ワイナリーに着任。2025年に椀子ワイナリー長に就任したばかり。

「椀子ワイナリー全体で30ヘクタール、東京ドーム6個分の大きさがあります。東に向けて開けた小高い丘にあって、朝昇ったおひさまがちょうど当たるような構成です。標高は約650メートル。寒暖差が大きく、降雨量も少なく、ワインブドウの適地であると判断し、2003年からヴィンヤードをスタートしました」

と岡村氏。当時はメルシャンが自社ヴィンヤードを増やそうとしていた時期。降雨量、標高などのいくつかの選定基準に合致し、椀子の地が選ばれたそうです。

「当時ここは遊休荒廃地で、不法投棄も多く、上田市も対応に苦慮していたという背景もありました。そこで上田市との共同プロジェクトとして、メルシャンでこの一帯を借り入れる形でスタートしました」

椀子ヴィンヤードの特徴のひとつは粘土質の土壌です。
「2メートルほどの層の上から下までが全部粘土質。土壌が水分を保持してしまうので水はけがすごく悪く、排水性も悪い。しかし、粘土質だとブドウの根も水分を吸いづらいんです。一般的には排水性が良い、岩がゴロゴロしているとか、砂などの土壌のほうが、パワフルなブドウに育つと言われているんですが、粘土質の椀子ヴィンヤードでも水分が吸収できないがために、ものすごく凝縮したブドウができるんです」

現在、椀子ヴィンヤードでは8品種を植えていますが、もともとはメルローとシャルドネから始まったヴィンヤードで、今も「椀子メルロー」が筆頭銘柄。その特徴は、椀子の土壌を反映したような力強さ、凝縮した味わいにあります。水分のストレスで、ブドウの果皮や種の割合が増えるためです。フランスのメルローと比較するとどんな感じなのか、という藤木氏の問いには、次のような答えがありました。

「ボルドーのジロンド側左岸は岩や砂礫が多く、そういうところのメルローはエレガントになります。同じボルドーでもポムロルは粘土質で、リッチで濃密なワインができると言われていますよね。椀子はそのポムロルに近いと言えると思います」

7月初旬、ヴィンヤードでの作業は、主に葉を取り除く「除葉」が中心で、垣根の片側だけを取り除く「片面除葉」を行っていました。適度に葉を取り除くことで、実が太陽に当たたり成熟を促し、また、病気の発生なども抑制するとのこと。春から初夏にかけては芽の数を揃える「芽かき」という作業があり、その後は草刈りと除葉の作業が中心になるそうです。そんな日々の作業の中で、一番気をつけているのが「観察と記録」だと岡村氏。

「まだ椀子ヴィンヤードは若い畑なので比較的病気は少ないですが、ベト病には気を付けています。害虫としては葉を食い荒らすマメコガネ、実に侵入するタマバエなどがいて、病気と害虫には常に気をつけています。そのため、椀子では、観察と記録を一番大事にしているんです。スタッフ全員で、醸造もやるしボトリングもやるし、畑仕事ももちろんやる。でも、できるだけ他の作業を短くして、畑に出る時間を増やすということに留意しています。ワインづくりは畑の管理あってこそなので、自分たちの目で確認することを重視しているんです」

椀子ヴィンヤードでもうひとつ気をつけていることが「自然のままに」という考え方。

「例えば畑の草も、除草剤は使いません。日本は高温多雨なので水分の蒸散を促すという意味で下草を残すということもありますが、必要以上に刈り取ったりせず、できるだけ自然のままに、自然の姿でありたいなと考えています」

ワインにする際のブドウの搾り粕は畑に積んで堆肥化し、畑に戻す。潜在植生を取り戻すために、近隣の刈草などを畑に入れるといった作業もしています。「循環型農業」と「自然共生」が椀子ワイナリーの根底にあるのです。そのためヴィンヤード内で生物多様性が向上し、絶滅危惧種が発見されたこともありました。また、2023年には環境省の「自然共生サイト」に認定されるなど、椀子ワイナリーの取り組みは広く知られるようになっています。

ヴィンヤードや貯蔵所などを見学した藤木氏は「椀子のワインの“らしさ”が、くっきり見えてきたような気がします」と話しています。

「ワインを仕入れる側からすると、自分のお店、料理に合わせやすい味、ラインアップになっているように思いました。輸入ワインの質はおしなべて向上しているものの、逆に個性が出ていない。椀子のワインは風土から生まれる個性をしっかり感じることができて、自分の料理に、どう合わせるかをイメージできました。考えてみれば日本の、地元の食材を使っているのだから日本のワインが合うのは当然のこと。今日見させていただいた風景や、作り手さんの思いを伝えながら提供したい。それは国産ジビエとまったく同じことなんですよね」

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文|
土屋季之
写真|
土屋季之
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